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日本薬科大学

クスリの『副作用』というものをもう一度考えてみましょう。

  2017.9.11

皆さんは、100歳の誕生日に首相から純銀製の銀杯が贈られるという制度があることをご存じでしょうか。


昭和38年制度発足当時、対象者は135人でした。この銀杯、平成27年からは銀メッキ製になりました。今や対象者が3万人を超えているからです。それだけ日本は長寿国になったということです。長生きできるようになったのはいいことですが、反面、銀杯の例でもわかるように様々な問題が浮き彫りにされています。この長生きを支えている要因の一つがクスリであることは間違いありません。おそらく、クスリのお世話になったことがない方はいらっしゃらないでしょう。でも、余りにもクスリが身近にあるために、クスリに対する意識が薄まっていることも事実です。


ここで、もう一度クスリの副作用について考えてみましょう。


▶ 副作用について


クスリの副作用は、医療機関でどのくらいの件数が報告されていると思いますか?2004年4月から、製薬企業や医療機関は医療機関で起きた副作用を国に報告する義務が課せられましたが、4月分だけで、因果関係が否定できない死亡63例を含む2,477例が732もの医薬品で報告されました。死亡例の約半数は抗がん剤ですが、これが現状です。さて、抗がん剤が出てきましたので、抗がん剤を例に挙げて副作用というものを考えてみましょう。


やはり、抗がん剤というと「副作用が強い」というイメージがつきまといますが、皆さんは、増殖速度が速いがん細胞と、遅いがん細胞では、どちらか危険性が高いと思いますか?なんとなく、短い時間で増え続ける増殖速度が速い方はタチが悪いような気がしますよね。その通りです。でも安心して下さい。抗がん剤は増殖速度の速いがん細胞を狙い撃ってくれます。でも、残念なことに、抗がん剤はがん細胞だけを狙い撃つような器用なまねができません。ですから、増殖速度の速い正常細胞までやっつけてしまいます。


では、増殖速度の速い正常細胞ってどこにあるでしょう。ズバリ、骨髄細胞、毛根細胞、口腔内細胞が典型例です。結局、抗がん剤はこれらの細胞をやっつけてしまうので、骨髄細胞がやられて血液障害、毛根細胞がやられて脱毛、口腔内細胞がやられて口内炎が起きてしまいます。なぜ骨髄細胞がやられて血液障害が起こるかというと、血液成分である赤血球、白血球、血小板はすべて骨の中で作られているからです。赤血球が減れば貧血になります。白血球が減れば身体の防御が破綻しますので感染症にかかりやすくなります(易感染性)。血小板が減れば血が固まりません(出血傾向)。でも、抗がん剤でよく見られるこの手の副作用って、抗がん剤ががん細胞を叩いてくれている証拠と言えます。裏を返せば、このような副作用が出ない抗がん剤は効いていないということになります。


抗がん剤を使用するか否かは、あくまで患者さんの選択に委ねられているということですね。


▶ 副作用も使いよう


クスリには、必ず「主作用」と「副作用」があります。主作用とは目的とする病気の治療のための作用、副作用とは目的の病気治療に望ましくない作用、と定義されます。副作用というと、「起こっては困るもの」、「いらないもの」、「邪魔なもの」と思っていらっしゃる方がほとんどだと思います。例えば、ある血圧を下げるクスリ(降圧薬)が、同時に血糖値も下げる作用があるとしたら、その患者さんは血圧も血糖値も高い場合には、非常に使い勝手のいいクスリになります。これは副作用でしょうか。やはり立派な副作用となるんですね。主作用以外の作用は、良かろうが悪かろうが副作用、というのが我々の考え方です。


一部の抗うつ薬(うつ病のクスリ)には副作用で尿の出を悪くしてしまう(排尿障害)ものがあります。健康な方にとって排尿障害は全く迷惑な話です。でも、尿が出すぎる方にとってはありがたい作用ですよね。ですから、その一部の抗うつ薬は「夜尿症(子供のおねしょ)」に堂々と使うことができます。まさに副作用を逆手に取った例です。もちろん、副作用のないクスリは理想的ですが、そんなクスリは残念ながら存在しません。むしろ、効く薬は副作用も強いと考えておいてください。ですから、有益性が危険性に勝る場合にのみ、薬が使用されるのです。


▶ 最後に


クスリが我々の日常生活にどれだけ貢献したかということは、改めて説明の必要もないことだと思います。副作用はクスリがもっている物理的な本質ですから、クスリを使う以上、回避することはできません。でも、クスリの基本的な知識を持ってさえすれば、最小限の被害で最大限の効果を得ることはできるはずです。クスリとうまく付き合って、末永く健康にお過ごしください。


 


日本薬科大学 教養教育センター教授・図書館長


佐藤卓美