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日本薬科大学

桜とクローン

  2018.2.26

日本薬科大学さいたまキャンパスは、桜の名所、無線山にあります。ちょうど入学式のころ、キャンパスの中にもその周囲にも、満開のソメイヨシノの並木道ができて新入生を迎えてくれます。四季折々、秋の紅葉も見事で、すばらしい自然環境を誇っております。



サクランボのできないソメイヨシノは、もちろん種から育てられたわけではなく、挿し木で増やされています。つまり、世界中のソメイヨシノは同じ細胞の子孫ということになります。全く同じ細胞由来の生物体をクローンと呼びます。動物の世界では、クローン動物を作り出すことは近年やっと可能になりました。最近、新聞で2匹のかわいいクローン子猿の写真をご覧になった方もおられると思います。一方植物の世界では、クローンの作成は何千年も前から行われていました。クローンの語源は小枝ということだそうです。


ソメイヨシノも我々人間も小さな多くの細胞からできています。ソメイヨシノの細胞は限りなく分裂増殖を続けていることになります。いわば不死のクローン細胞といえます。細胞は、1つの親細胞が2つの娘細胞へと分裂して増えていきますが、我々動物の細胞では、分裂するたびに印がついていって、印がたまるとこれ以上増えないということになります。この印は精子や卵子ができるときにリセットされ、受精して受精卵ができるときに一からスタートということになるわけです。現在では人工的に細胞をリセットすることが可能となり、クローン動物やiPS細胞をつくれるようになりました。ただし、リセットされた細胞が現れる確率はまだ非常に低いのが現状です。


ところで、もし我々の体の中で無限に増殖するクローン細胞が出現したら、これはがん細胞です。つまり「悪のクローン」細胞といえます。一方、遺伝子を組み換えたクローンT細胞によりがん細胞を攻撃する、CAR-T(カーティー)細胞療法が開発され、米国で認可されました。T 細胞は、体内でウイルスを撒き散らす細胞やがん細胞を退治してくれる最も強力な免疫細胞です。全国を巡り一人の仇を探す侍のように、T細胞は全身を巡り退治する細胞を探しています。どの細胞を攻撃するかは、T細胞の遺伝子DNAに書き込まれています。そこで、がんの患者からT細胞を取りだして遺伝子を書き換え、がん細胞を攻撃するようにプログラムします。これがCAR-T細胞と呼ばれる「正義のクローン」T細胞です。この細胞を治療薬として患者に注入すれば、がん細胞を見つけて、退治してくれるはずです。実際に調べてみると、この方法が大変有効な方法であることがわかってきました。ただし、人間の遺伝子を書き換えるには大変な費用が必要です。高額な費用をどうするかが今後の問題になるところと思います。


さて、このように今の薬学では、簡単な化学物質から生きた細胞まで広い範囲の治療薬の知識を教えています。入学生のみなさんがこの薬学を学び始め、ソメイヨシノが散るころ、別のクローンである八重桜が満開となります。機会がありましたら、どちらもぜひ見にお出でください。



日本薬科大学 薬学教育推進センター 教授


根岸 和雄